このページの要点
- 講師との私的な通信・私的関係・直接契約・ノウハウの漏えいを具体的に禁止し、是正の機会→停止・解除の段階を置く。
- 紹介料は回収連動型か、返金・取消し・不払いのときのクローバックを定める。紹介の識別方法も決める。
- 紹介者の表示は事業者の表示と評価され得る。事前承認と広告である旨の明示を契約に入れる。
- 教室の間借り・学校向けプログラム・生徒管理システムは、生徒への授業とデータに跳ね返る条から確かめる。
結論:講師・紹介者・施設・学校・システム会社との契約は「生徒との契約に跳ね返る部分」から作る
塾・家庭教師の事業は、生徒・保護者との契約だけで回っているわけではありません。講師が生徒と直接つながってしまうのを防ぐ定め、生徒を紹介してくれるパートナーへの紹介料、教室を借りる契約、学校から受託するプログラム、生徒管理システムの利用契約が、周りを囲んでいます。これらの契約で事務所が最初に見るのは、生徒・保護者との契約で起きることが、周りの契約にどう跳ね返るかです。
たとえば、生徒が中途解約して授業料を返したのに、紹介パートナーへの紹介料は返ってこない。教室を借りる契約が施設側の都合で終わり、生徒への授業を続けられない。システム会社が短い予告で解約でき、生徒の台帳が消える。いずれも、周りの契約に「生徒との契約で起きること」が書かれていないために起きます。このページでは、講師との私的な接触・直接契約の禁止、紹介パートナーとのレベニューシェア、紹介者の広告と勧誘の管理、教室の確保、学校向けプログラム、生徒管理システムを紹介します。講師の雇用(アルバイト講師の労務)は扱いません。
生徒・保護者と講師の私的な接触・直接契約の禁止
個別指導塾にとって、講師が生徒や保護者と個人的につながり、塾を通さずに授業をする「直接契約」は、売上と信用を同時に失う事態です。総合型選抜対策の個別指導の原案は、生徒側の禁止事項として「講師と私的な連絡を取る行為」「講師と恋愛関係になる行為」「無断で講師から個別に授業を受ける行為」「無断で講師と個別に授業を受ける契約を締結する行為」「その結果、指導方法等が流出した場合」を並べていました。
事務所の改訂例 講師との私的な接触・直接契約の禁止
禁止する行為の書き方
なぜ変えるか「恋愛関係」は主観的であいまいで争点になりやすいため、私的関係・不適切な接触として一般化しました。「流出」も、何が守られる対象かを具体的に書き直しています。
違反したときの措置
なぜ変えるか一時的な措置(中断)と恒久的な措置(解除)の段階を明確にし、原則は通知と是正の機会を置く形にしました。いきなりの解除は争われやすいからです。
この定めを実効的にするには、欠席の連絡や質問を講師個人のSNSではなく塾の窓口に集める運用が欠かせません(欠席・振替・休会のページ)。個人で家庭教師をする講師の側から見ると、他の講師に代わってもらう再委託は保護者の承諾が必要で、再委託先にも同じ秘密保持の義務を課す、という形になります(家庭教師の契約書のページ)。
紹介パートナーとのレベニューシェア:返金に連動させる
受験コーチング事業者が、他社の会員を紹介してもらい、受講料の一定割合を紹介料として払う契約(レベニューシェア)のドラフトをレビューした案件では、甲(受験コーチング事業者)の立場から、このままでの締結は推奨できないと結論づけました。最大の問題は、紹介が成功して会員が順調に受講を続ける平時だけを描いていて、会員のクーリング・オフ、中途解約、契約の取消し、成約の数え方をめぐる争いへの備えがほぼ欠けていたことです。
ドラフトの「成約」は、最初の支払の完了とクーリング・オフ期間の経過で確定し、その後に会員との受講契約がどうなっても紹介料は満額のまま維持される形でした。しかし、受験コーチングが家庭教師型の特定継続的役務提供に当たるなら、会員はいつでも中途解約でき、事業者の手元に残せる金額には上限があります。報告書の数値例では、3か月分を一括で受け取り、成約時の総額に対する一定割合の紹介料を払った後、会員が1か月で解約すると、事業者の手取りは提供済みの1か月分と上限額の合計に減り、その手取りのおよそ6割を紹介者が取る逆転が起きる、と示しました。分割払いでも「分割総額」を基準に紹介料を計算する定めだったため、初回の分割金しか払われないまま不払いになっても、総額に対する紹介料を払う建付けでした。
- 支払の基準を「会員から実際に回収した額」に改める(回収連動型)。
- 成約ベースを維持するなら、返金・取消し・不払いが生じた場合に紹介料を返還させ、又は翌月以降の紹介料から控除する(クローバック)。
- 報告から支払までの間に一定の留保期間を置く。
- 紹介の識別方法(紹介コード・専用の申込フォーム)、紹介の有効期間、甲自身の広告や他の紹介者と競合した場合の優先順位、「会員」の範囲、乙が甲の報告を検証する手段を定める。
- 紹介料の消費税の内外、適格請求書の要否、契約終了前に紹介された人が終了後に成約した場合の扱い(期間を限ったテール条項)を決める。
ご相談の内容は「相互紹介」だったのに、ドラフトは紹介者が事業者を紹介する一方向しか定めていない、という不一致も指摘しました。逆方向の紹介を予定しているなら、その紹介料率・成約の定義・広告規制への対応・個人情報の流れを別に決めない限り、逆方向の紹介は無償・無規律で行われることになります。紹介者が従業員を使用しない個人や一人会社であれば、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により、取引条件の明示(3条)や、従業員を使用する事業者が委託する場合の報酬の支払期日の規律(4条)がかかるかも確かめます。中途解約の上限の数字は中途解約と返金のページで扱いました。
紹介者の広告・勧誘は、事業者の表示と評価され得る
紹介者が自社の会員に配る案内や動画、共催のセミナーは、事業者のサービスの取引を誘引する表示です。報告書では、広告規制の観点からの条項がドラフトに一つもないことを指摘しました。事業者が第三者に表示の作成や掲載を任せても、表示の内容の決定に関与していればその事業者自身の表示となり得ます。消費者庁は、アフィリエイターが作成した表示について広告主に措置命令を行っており(令和3年11月9日)、合格実績や成績向上の効果の誇張は優良誤認(景品表示法5条1号)、終わったキャンペーンの料金の残存などは有利誤認(同条2号)の問題になります。効果や実績をうたう表示には合理的な根拠の裏付けも必要です。
紹介料という対価を得て推奨する紹介者の表示が事業者の表示と評価される場合、それが事業者の表示であることが一般消費者に明瞭でなければ、いわゆるステルスマーケティングの告示(景品表示法5条3号に基づく指定)に違反します。消費者庁は令和6年6月6日に、この告示を初めて適用した措置命令を行いました。事業者には、表示を適正に管理するために必要な体制の整備などの措置を講じる義務もあります(景品表示法22条1項)。表示の事前承認、広告である旨の明示、禁止する表現の列挙、違反したときの掲載の停止と是正を、紹介契約に組み込みます。
勧誘の品質は、受講契約の効力にも直結します。紹介者は事業者から媒介の委託を受けた第三者に当たり得るため、紹介者の勧誘に不実告知や断定的判断の提供などがあれば、会員は事業者との受講契約を取り消せます(消費者契約法5条1項・4条)。特定継続的役務提供に当たる場合は、勧誘の際の不実告知や威迫は特定商取引法44条で禁止されています。紹介者の一言が、事業者の売上をさかのぼって消し、先に見た返金と紹介料の問題を引き起こす関係にあるので、勧誘の際の禁止事項と研修も契約で決めます。成約者の情報を紹介者に報告する場合の本人の同意については、子どもの個人情報・写真のページで扱いました。
紹介者に守ってもらう表示と勧誘のルール(紹介契約に書くこと)
- 初回の表示と、料金・効果・実績に関する表示は、掲載の前に事業者の承認を受けること。
- 紹介料を受け取って推奨していること(広告であること)を、表示の中で明瞭に示すこと。
- 合格の保証、成績の向上の断定、根拠のない実績の数字、終わったキャンペーンの料金を使わないこと。
- クーリング・オフや中途解約について、事実と違う説明をしないこと。
- 事業者の表示のガイドラインに従い、違反を指摘されたら直ちに掲載を停止し、修正すること。
- 違反によって事業者が受講契約の取消しや行政上の措置を受けた場合の、紹介料の返還と損害の補償。
報告書では、紹介契約の後半の条項の不足も指摘しました。契約が終わった後も効力を持つべき秘密保持・個人情報・精算の条を残す存続条項がないこと、契約の終了の前に紹介された人が終了後に申し込んだ場合の扱いが決まっていないこと、反社会的勢力の排除の条が表明だけで解除や免責の効果を定めていないこと、などです。紹介の関係は、紹介が成功しているときより、関係を終えるときに争いになりやすいので、終わり方の条を先に作っておきます。
教室を借りる・間借りする
民間の学童保育の教室を、児童が来ない平日の午前中に、学習指導の事業者に貸す施設利用契約を作成しました。施設側と借りる側の双方にとって大切だったのは、次の点です。
教室を借りる契約で確かめる項目
- 契約の性質:施設の一時的な利用の許諾であって賃貸借ではなく、借りる側は占有権その他の物権的な権利を持たないこと。
- 利用の範囲:施設側が指定する範囲の、独占しない一時的な利用であること。立入禁止の区域、入退室の方法と入退室の情報の管理、駐車場の有無。
- 利用の目的:学習指導の教室としてだけ使い、学習指導と実質的に関係のない活動をしないこと。
- 利用できない日:長期休暇の期間や給食のない日など、児童が午前中に施設を使う日は利用できないこと。予約の締切と施設側の承諾。
- 利用人数の上限:同じ時間帯の上限に、講師・受講者・付添いの保護者などすべての人を含めること。
- 第三者の利用の禁止:借りる側が他の事業者に又貸ししたり、提携の名目で使わせたりしないこと。外部の講師や提携先のスタッフを連れてくる場合に事前の承諾が要るか。
- 事故・苦情の対応と保険:借りる側の関係者の行為について借りる側が責任を負うこと、賠償責任保険への加入。
- 料金・キャンセル・期間:時間単位の料金と端数の扱い、前日までのキャンセル、自動更新と解約の予告。
初版は条項の多い重厚な形でしたが、依頼者との協議を重ねて、契約の性質、指定範囲の非独占的・一時的な利用、施設側の指示と立入禁止の区域、入退室の方法と情報の管理、駐車場の提供がないことなどに絞った簡素な形に改訂しました。料金は1時間あたりの基本料金と30分単位の延長料金とし、最低の利用時間を1時間、30分未満の端数は30分に切り上げ、準備と片付けの時間も利用時間に含める、と定めました。利用日の前日までのキャンセルは無料、当日のキャンセルや連絡なしの不使用は全額という区分です。生徒側の授業のキャンセルのルールと、教室を借りる側のキャンセルのルールが食い違っていると、塾が差額を負担することになるので、両者を見比べて決めます。事業者どうしの契約なので消費者契約法はかかりませんが、施設側の都合で利用日を変更・中止できる定めがある以上、借りる側は生徒への授業の振替や休講の連絡を生徒との規約で手当てしておく必要があります。
商業施設の中のスタジオをスクールが定期的に使う契約のレビューでは、利用者の行為がそのまま商業施設全体に影響することを契約に織り込むよう指摘しました。保護者が共用の通路を占拠する、待機の列が店舗の前にはみ出す、子どもが館内を走り回る、駐車場に長時間とどまる、避難経路をふさぐ、といった事態です。修正版では、館内規則・共用部の利用規則・防災規則・避難経路の指示などを守ること、共用部での滞留や待機の列の形成をさせないことを定め、定期の枠は利用しなくても返金・振替をしないこと、変更は1か月前までに申し出ることも整理しました。
学校向けプログラムと、生徒管理システム
中高生向けの1日の教育プログラムを学校から受託する契約では、委託料を「実際に参加した生徒の数×単価」とし(一部だけ参加した生徒も1名として数える)、締結時に参加予定の生徒数を記入し、期日までに実際の参加数の報告がなければ予定数で請求できる、と定めました。個々の生徒の欠席は委託料が発生しないだけで、プログラムの中止や縮小には当たらないことも明記しています。学校の都合による全部の中止や規模の縮小は、通知を受けた日を基準日にして、期間の区分ごとに段階的なキャンセル料を定めました。
当初の28条の修正版は、依頼者から「学校側にも負担なく確認してもらえる、簡潔で分かりやすい契約書に」という要望を受けて13条に組み直しました。仕分けの基準は、事業者の金銭や権利に直接関わるもの(キャンセル料、不可抗力時の精算、知的財産権、責任の上限)は内容を維持し、性質が近いものは統合し、1日限りの契約で発動の可能性が低く発動しなくても実害が小さいもの(遅延損害金、無催告解除、一般条項の一部)は削除する、というものです。遅延損害金の条を削っても、金銭債務の不履行には法定利率による損害賠償を請求できる(民法419条1項)ことも説明しました。キャンセル料が損害賠償額の予定(民法420条)であることを明示するかどうかは、「学校に堅い印象を与えない」という依頼者の意向と、明示した場合の効果の違いを説明したうえで、判断してもらいました。
不可抗力でプログラムを中止した場合の精算も、この契約の要でした。草案は、学校の主観的な判断で不可抗力を理由に中止でき、時期を問わず一律の割合の準備の対価だけを払う形になっていて、事業者側の不可抗力の定めもありませんでした。修正版では、不可抗力を外部的な事由に限り、中止のときは準備業務の対価として一定の割合と、交通費・宿泊費の一部を学校が負担し、延期した後に結局中止になった場合でも準備の対価は1回限りとする、と整理しました。季節講習を学校の施設で行う、学校の部活動の時間に学習指導を行うといった連携でも、中止の原因が学校の内部の事情か、外部の事情かで精算を分ける考え方は同じです。
生徒管理システムを導入する塾の側から見ると、民間スクール向けの顧客管理システムの利用契約のひな形をレビューした案件の指摘は、そのまま確認の項目になります。契約終了時のデータの扱いが「個人情報を返却又は消去」しかなく、業務データ全体の返還・エクスポート・消去の時期の定めがないうえ、システム会社は14日前の通知でいつでも解約できるため、有事には「スクールの顧客台帳が2週間で消える」構造になっていました。生成AIの機能で登録データを外部の事業者に処理させるなら、再委託の承諾の条と衝突すること、漏えいのときの通知、生徒数に応じた料金の判定の時点も確かめます。責任の上限が「直前1か月分の利用料」と定められている場合は、無償期間や利用の初月に上限が0円と読まれないか、上限が債務不履行だけでなく不法行為による請求にも及ぶのか、システム会社の免責事由(外部サービスの障害など)が何か、も見ておきます。システム会社との契約の上限は、塾が生徒から請求された損害をシステム会社に求償するときにしか働かないので、上限の水準と保険を合わせて考えます。個人情報の委託の論点は子どもの個人情報・写真のページで扱いました。
起きがちなこと
よくあるご質問
講師が生徒と直接契約するのを防ぐには、規約に何を書けばよいですか?
講師やスタッフとの私的な通信・交流、私的な関係、塾を介さない個別の受講・契約・金銭の授受、ノウハウの漏えいを禁止事項として具体的に書き、違反したときは通知と是正の機会を経て停止・解除、重大な場合は即時解除とする段階を定めます。連絡は塾の窓口に集める運用も欠かせません。
紹介パートナーに払った紹介料は、生徒が解約したら返してもらえますか?
契約に定めがなければ、取り戻すのは困難です。会員から実際に回収した額を基準にする回収連動型にするか、返金・取消し・不払いのときに紹介料を返還させ又は翌月以降から控除するクローバックの条項を置きます。
紹介者が作った動画の表現について、塾が責任を問われることはありますか?
あり得ます。表示の内容の決定に関与していれば、景品表示法上は塾自身の表示と評価され得ます。合格実績の誇張は優良誤認、広告であることを隠した推奨はステルスマーケティングの告示の問題になるため、表示の事前承認や広告である旨の明示を紹介契約で定めます。
学童保育の空き時間に教室を借りるとき、どんな契約にすればよいですか?
施設の一時的な利用の許諾で賃貸借ではないこと、利用の目的と範囲、児童が利用する日の制限、利用人数の上限、入退室の管理、第三者に使わせないこと、事故の対応と保険を定めます。施設側が利用日を変更できるなら、生徒への振替の手当ても必要です。
生徒管理システムを選ぶとき、契約で何を確かめればよいですか?
契約終了時のデータの返還・エクスポート・消去の時期、システム会社からの解約の予告期間、漏えいのときの通知、再委託や外部のAIでの処理、外国のサーバーの有無、生徒数に応じた料金の判定の時点を確かめます。
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