このページの要点
- 合格者に数える条件(在籍期間・受講内容・実人数かのべか・母数・入試の種類・年度)を決め、見出しの近くに注記する(景品表示法5条1号)。
- 「地域No.1」「地域最大級」は、範囲・指標・時点・根拠をそろえてから使う。根拠資料は表示をやめたあとも保管する(同法7条2項・8条)。
- 成績保証・返金保証は、成果を約束する契約ではなく、条件を契約の前に示す任意の返金特約として設計する。
- 「合格しても・成績が上がらなくても返金しない」条項でも、法定のクーリング・オフと中途解約(特定商取引法49条7項)は妨げられない。
結論:合格実績は「数え方を決めて注記する」、保証は「任意の特典として条件を先に示す」
塾の広告でいちばん目を引くのは合格実績で、いちばん争いに近いのは返金や保証に関する定めです。この二つは、別の法律の別の場面で考えます。広告や教室の掲示、ウェブサイトの合格実績や体験記は「表示」の問題で、景品表示法が中心になります。「成績が上がらなければ返金する」「合格しても返金しない」といった定めは「契約」の問題で、民法の準委任、消費者契約法、特定継続的役務提供に当たる場合は特定商取引法が関わります。両者がつながるのは、広告で打ち出した保証の条件が、契約書のどこにどう書かれているか、という場面です。
結論を先に並べると、次のとおりです。
- 合格実績の数字は、「何を合格者に数えたか」を文章で決め、見出しの近くに注記する。事実の数字であっても、数え方が見る人の想像と違えば、実際より優良に見える表示になり得る(景品表示法5条1号)。
- 「地域No.1」「地域最大級」は、比較の範囲・指標・時点・根拠をそろえてから使う。根拠を示せない比較は使わない。
- 合格体験記・成績アップの事例は、実在する本人の体験であること、典型でない結果を典型のように見せないこと、本人と保護者の同意があることをそろえる。謝礼を渡すときは、表示の出し方(自社サイトか、本人のSNSか)で扱いが変わる。
- 成績保証・返金保証は、成果を約束する契約ではなく、条件を満たしたときに返金する任意の特約として設計し、条件を契約の前に示す。
- 「成績が上がらない」「合格した」ことを理由に返金しない定めは、成果を保証しないことの確認としては書けるが、法定のクーリング・オフと中途解約の権利を妨げることはできない。
このページが扱うのは、塾自身が出す表示と、塾自身が設計する保証の定めです。生徒・保護者の写真や氏名の掲載に伴う個人情報の同意は塾のプライバシーポリシーと子どもの個人情報のページに、紹介者や提携先が作る広告の責任は塾の講師・紹介パートナー・提携先との契約のページにあります。中途解約の上限額と精算の式は学習塾・家庭教師の中途解約と返金のページ、成果を保証しない準委任としての基本は家庭教師の契約書の作り方のページで説明しています。
合格実績の数え方:何を「合格者」に入れるか
合格実績は、塾が提供する指導の成果を示す表示です。景品表示法5条1号は、商品または役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるものを禁止しています。合格者の数が、実際の指導の成果よりも大きく見える数え方は、この規定の対象となり得ます。
難しいのは、数字が事実であっても問題になり得る点です。「○○中学校 合格者○名」と書かれていれば、見る人は、その塾に通って指導を受けた生徒のうち、その学校に受かった人数だと受け取ります。ところが、実際の数字が、春期講習だけを受けた生徒や、模擬試験だけを受けた人、体験授業に一度参加しただけの人まで含んだ数であれば、見る人の想像と実際の間にずれが生じます。「虚偽の数字は書いていない」では足りず、見る人が受け取る印象と、実際の数え方が合っているかが問われます。
合格者数の数え方でずれが生じやすい場面(一般的な整理)
| 数え方の論点 | 起こりやすい表示 | 誤認のおそれ | 整える方法 |
|---|---|---|---|
| 在籍した期間と受講の内容 | 短期の講習だけを受けた生徒を、通年で通った生徒と同じ「合格者」に数える。 | 長く指導を受けた成果のように見える。 | 通年の生徒と講習のみの生徒を分けて集計し、見出しに入れる生徒の条件を注記する。 |
| 模擬試験・体験授業だけの利用 | 模擬試験を受けただけの人、無料の体験授業に参加しただけの人を含める。 | 指導を受けた実績ではないのに、指導の成果に見える。 | 授業などの指導の提供を受けた人に限る定義にして、定義を注記する。 |
| のべ人数と実人数 | 一人が複数の学校に合格したとき、合格した学校の数の合計を「合格者数」と表示する。 | 実際の人数より多く見える。 | 「合格者数(実人数)」と「合格校数(のべ)」を分けて書く。 |
| 母数(受験者数・在籍者数) | 合格者数だけを大きく表示し、受験した人数や在籍した人数を示さない。 | 合格率の高さのように受け取られる。 | 合格率を出すなら、母数と算出の式を併記する。 |
| 合格の種類 | 補欠からの繰り上げ合格、併願の優遇、推薦、系列校への内部進学を、一般入試の合格と同じに数える。 | 難度の高い入試に受かった実績と受け取られる。 | 入試の種類ごとに分けて数えるか、含めている種類を注記する。 |
| 年度と集計の時点 | 数年分を合算した数字を、最新の年度の実績のように載せる。古い年度の数字をそのまま使い続ける。 | 現在の実績と誤認される。 | 年度と集計の時点を明記し、毎年更新する。 |
数え方を変えたときは、変えたことを注記します。基準が毎年違う数字を並べて「増えている」と見せる表示は、比較として成り立ちません。
表示の見本(架空)
○○中学校 合格者 ○名
(見出しだけを大きく載せた状態。これだけでは、数え方が見る人に伝わりません)
見出しの近くに添える注記の項目
- 集計の対象通年で通塾して授業を受けた生徒に限る。講習のみ・模擬試験のみ・体験授業のみの人は含めない。
- 集計の期間・時点○年度の入試。○年○月○日時点で集計。
- 人数の数え方実人数。一人が複数の学校に合格した場合も一人と数える。
- 母数同年度に受験した生徒は○名。
- 入試の種類一般入試による合格。推薦・繰り上げ合格の人数は別に○名。
注記は、見出しの近くに、読める大きさの文字で入れます。小さな文字を画面の端に置くだけでは、見出しの印象を打ち消す役割は果たしません。
数え方を決めるときは、塾が保管している名簿や受講の記録で、後から数字を再現できる形にしておきます。合格者の氏名・在籍期間・受講した内容・合格した学校と入試の種類を一覧にして、集計の式を残しておけば、表示の根拠を説明できます。「去年の担当者が数えた数字をそのまま使っている」状態は、根拠を示せない表示の典型です。
根拠が示せないことには、法律上の意味があります。内閣総理大臣は、措置命令に関して、表示が5条1号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、事業者に期間を定めて、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、事業者が資料を提出しないときは、その表示は5条1号に該当するものとみなされます(景品表示法7条2項)。課徴金納付命令に関しては、提出しない場合に5条1号に該当する表示と推定されます(同法8条3項)。課徴金は、課徴金対象期間に取引をした役務の売上額に100分の3を乗じた額で(同条1項)、課徴金対象期間は、違反行為をした期間に、違反行為をやめた日から6月を経過する日までに行った取引の期間を加えた期間で、3年が上限です(同条2項)。事業者は、不当な表示が行われないよう、表示に関する事項を適正に管理するために必要な体制の整備その他の措置を講じなければならないとされています(同法22条1項)。
この点で、合格実績の表示は、一度載せたら終わりではありません。年度が変わるたびに数字を更新する担当者、数え方の定義を確認する担当者、広告の制作を外部に出した場合に出来上がりを確認する担当者を決め、基準を文書にしておくことが、管理体制の具体的な形になります。
No.1表示と「地域最大級」:根拠をそろえてから使う
「地域No.1」「合格者数 県内トップクラス」「地域最大級の塾」といった比較の表示は、塾の広告によく見られます。景品表示法の目で見ると、比較の表示は、比較の対象、指標、時点、根拠が、見る人に分かる形で示されているかが問題になります。
消費者庁表示対策課は、令和6年9月26日付で「No.1表示に関する実態調査報告書」を公表しました。この報告書は、とくに第三者の主観的な評価(アンケートによる満足度など)を根拠とするNo.1表示を中心に、実態を調べ、景品表示法上の考え方を整理したものです。表示の根拠とする調査の組み立て方や、表示物への調査概要の載せ方などの具体的な内容は、報告書の原文で確認する必要があります。
塾の場合は、「合格者数」や「生徒数」のように、客観的な数値を指標にした比較が中心になります。客観的な数値であっても、比較の範囲・指標・時点・根拠を点検するのが安全です。比較する塾の範囲を同じ地域・同じ種類の塾に限れているか、他の塾の数字を同じ基準で入手できているか、集計の期間と時点がそろっているか、が問われます。他の塾の合格者数は、多くの場合公表されておらず、同じ基準で比べること自体が難しいため、「No.1」と言い切らず、自塾の実数と数え方を示す表示にとどめる選択もあります。
比較の表示を使うときの根拠と注記(一般的な整理)
| 表示の型 | 根拠として整えること | 見出しの近くに添える注記 | 避けたい書き方 |
|---|---|---|---|
| 合格者数の地域No.1 | 比較する塾の範囲と、各塾の数字の出どころ。同じ定義・同じ期間で数えた資料。 | 集計の期間、比較した塾の範囲、数え方の基準。 | 他の塾の数字を確かめないまま、「No.1」とだけ書く。 |
| 生徒数の地域最大級 | 生徒数の定義(在籍の基準日、講習のみの生徒を含むか)と、比較する範囲。 | 基準日と、含めた生徒の範囲。 | 講習生を含めた数と、他の塾の通年生の数を比べる。 |
| 保護者へのアンケートによる満足度No.1 | 調査の実施主体、対象者の選び方、設問、方法の公平さ。調査の結果と表示の内容の対応。 | 調査の実施主体、時期、対象、回答数。 | 調査会社に任せきりで、自塾の生徒に有利な対象を選んでいる。 |
| 口コミの評価点 | 評価点の集計方法。全件か、抽出か。 | 集計の時点、件数、出どころ。 | 高い評価の口コミだけを抜き出して、平均のように載せる。 |
「地域最大級」「トップクラス」「業界屈指」のような言い方は、断定を避けるつもりで選ばれることがあります。しかし、範囲(どの地域か)と指標(生徒数か、教室数か、合格者数か)が書かれていなければ、見る人は、自分に都合のよい範囲と指標で受け取ります。曖昧な言い方で比較の優位を示すことは、断定を避けているのではなく、根拠のあいまいな比較を示していることになりかねません。使うのであれば、「○○市内の学習塾のうち、○年○月時点の在籍生徒数が最多(自社調べ)」のように、範囲・指標・時点を明記します。
合格体験記・成績アップの事例:実在、条件、同意、謝礼
合格体験記や成績が上がった事例は、見る人に与える影響が大きい表示です。まず、実在する本人の実際の体験でなければなりません。複数の生徒の体験を一つにまとめた架空の体験記、本人が書いていない文章を本人名義で載せる表示、実際の結果よりも良く見える形に手を入れた文章は、品質についての誤認につながります。
成績アップの事例で気をつけたいのは、典型でない結果を、典型のように見せることです。たとえば、特別に伸びた一人の事例を大きく載せ、全員が同じように伸びる印象を与える表示です。事例を載せるなら、開始時の成績、指導を受けた期間、通った回数、他の学習(別の塾や家庭学習)の有無といった条件を、事例の近くに注記します。「個人の感想です」「結果には個人差があります」といった注記を添えても、表示全体が与える印象が実際と異なるときは、注記だけでは足りないことがあります。注記は、表示全体の印象を実際に近づけるための補足であり、誤認を打ち消す道具としては限界があります。
掲載の同意は、生徒本人と保護者の両方から取ります。氏名の表示の仕方(フルネーム、イニシャル、匿名)、写真の有無、掲載する媒体(ウェブサイト、チラシ、教室の掲示、SNS)、掲載の期間、撤回したときの削除の方法を、あらかじめ書面で確認します。個人情報の面から見た同意の取り方は、塾のプライバシーポリシーと子どもの個人情報のページで説明しています。
条文例合格体験記・成績事例の掲載に関する同意(一例)
1生徒および保護者は、塾が次の範囲で、生徒の合格体験記および成績の事例(以下「体験記等」といいます。)を掲載することに同意します。(1) 掲載する内容:体験記の文章、入試の結果、成績の変化 (2) 氏名の表示:○○(フルネーム/イニシャル/匿名のうちから選択) (3) 写真:掲載する/掲載しない (4) 媒体:○○ (5) 期間:○年○月○日まで
2塾は、体験記等を掲載するときは、事実と異なる内容に改変しません。文章の長さの調整など、趣旨を変えない編集をするときは、掲載の前に生徒および保護者に内容を確認してもらいます。
3生徒または保護者は、いつでも、書面(電磁的記録を含みます。)により、掲載の同意を撤回することができます。塾は、撤回を受けたときは、合理的な期間内に、自ら管理する媒体から体験記等を削除します。すでに印刷して配布した資料から削除することはできません。
4体験記等の掲載に対して、塾が生徒または保護者に謝礼を支払うときは、その内容を別に書面で定めます。
第3項の最後の文は、配布済みの印刷物を回収できないという現実を、あらかじめ書いておくための定めです。
体験記に謝礼を渡すときは、表示が出る場所で扱いが変わります。塾が自分のウェブサイトやチラシに体験記を載せる場合は、見る人にとって、塾自身の表示であることは明らかです。一方、生徒や保護者が、自分のSNSに体験を投稿し、塾が割引や贈答品などの対価を渡している場合は、投稿が塾の表示であるのに、一般の人にはそれが分からない状態になり得ます。景品表示法5条3号に基づく指定告示(令和5年内閣府告示第19号)は、事業者の表示であることを一般消費者が判別することが困難な表示を禁止しています。消費者庁の運用基準(令和5年3月28日)は、事業者が表示内容の決定に関与しているかどうかなどを基準に、事業者の表示かどうかを判断する枠組みを示しています。対価を受けた投稿には、「広告」「PR」など、事業者の表示であることが分かる明示を求める運用にしておくのが安全です。紹介者が作る広告の責任は塾の講師・紹介パートナー・提携先との契約のページにあります。
成績保証・返金保証を、任意の特典として設計する
学習指導の契約は、一般に準委任(民法656条、643条)の性質を持ち、受任者は善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負います(民法644条)が、成績の向上や合格という成果は約束しません。成果を保証しないことは、家庭教師の契約書の作り方のページでも説明した、学習指導の契約の基本です。これに対して、「成績が上がらなければ返金する」「合格できなければ返金する」という保証は、成果を約束するのではなく、一定の条件を満たしたときに支払った料金の全部または一部を返す、任意の特約として設計するのが整理のしやすい形です。成果の約束(成果を出す義務)と、成果が出なかったときの返金の約束(金銭の給付の約束)は、別のものとして書き分けます。
返金保証の特約で決めておく項目(一般的な整理)
| 項目 | 決めること | 書き方のポイント |
|---|---|---|
| 対象 | どのコース、どの科目、どの期間の契約に付けるか。 | 対象外のコースを明示する。入会金や教材費が対象に入るかも書く。 |
| 達成の基準 | どの数値で「成績が上がった」「上がらなかった」とするか(定期テストの点数、偏差値、順位、志望校の判定など)と、測る時点。 | 契約時に基準を書面で確認し、証明する資料の種類を書く。基準を後から変えられる書き方にしない。 |
| 利用者側の条件 | 出席率、宿題の提出、面談への参加など。 | 契約の前に示す。入会後に条件を追加しない。 |
| 返金の範囲 | 全額か一部か。入会金、教材費、システム利用料の扱い。 | 費目ごとに書く。 |
| 申請の方法 | 申請の期限、様式、提出する資料、判断までの期間。 | 期限の長さが合理的かを確かめる。判断の基準も書く。 |
| 返金の方法と時期 | 振込か、カードへの返金か。返金までの日数。振込手数料の負担。 | 時期を具体的に書く。 |
| 法定の権利との関係 | クーリング・オフ、中途解約を妨げないこと。 | 明記する。 |
保証を広告に使うときの表示にも気をつけます。「成績が上がらなければ全額返金!」と大きく打ち出し、条件を契約書の奥にしか書かないのは、取引条件を実際よりも著しく有利と誤認させる表示(景品表示法5条2号)になり得ます。ウェブ上で申込みを受ける場合は、申込みの手続が表示される画面に、解除に関する事項を表示する義務もあります(特定商取引法12条の6第1項、11条5号)。保証の条件の要約は、広告の見出しの近くに、契約書と同じ内容で載せます。
書き方の例(一般的な例) 返金保証の見せ方と条件
広告の表示
なぜ変えるか条件が見えない保証は、取引条件の有利さを実際より大きく見せる表示になり得る(景品表示法5条2号)。広告と契約書で条件を一致させる。
保証の名称
なぜ変えるか「保証」という強い言葉は、成果を約束しているかのような印象を与える。実際の中身に合う名称にする。
条件を示す時期
なぜ変えるか契約後に条件を足す運用は、利用者の信頼を損ね、事業者に不利に解釈されやすい。
特定継続的役務提供に当たる学習塾・家庭教師では、広告の規制もあります。特定商取引法43条は、特定継続的役務の提供条件について広告をするときに、役務の内容または効果その他の主務省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をすることを禁止しています。主務省令で定める事項には、「役務の効果又は目的」が含まれます(特定商取引法施行規則103条2号)。契約の勧誘の場面では、効果や、顧客が契約を必要とする事情について不実のことを告げる行為が禁止されています(同法44条1項1号・7号)。判定の順番は学習塾・個別指導の開業と特定継続的役務提供のページで説明しています。
契約を結ぶ本人が、高校生や大学生など、社会生活上の経験が乏しい消費者である場合は、消費者契約法4条3項5号にも気をつけます。この規定は、進学などの願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、契約が願望の実現に必要である旨を告げることを、取消しの対象としています。「このコースを取らないと志望校には届かない」と、根拠なく不安をあおる勧誘は、この規定に触れるおそれがあります。
「成績が上がらない」「合格した」ことを理由に返金しない条項
返金に関する定めには、「成績が上がらなくても返金しない」「合格しても返金しない」という方向の書き方もよく見られます。この方向の条項は、書く理由が三つに分かれます。第一に、成果を保証しないことの確認です。第二に、返金保証の条件に該当しない場合に返金しないことの確認です。第三に、合格などで学習を終える場合に、残りの期間の授業料を返さないという定めです。この三つは、法的な扱いが違うので、分けて考えます。
書き方の例(一般的な例) 返金しない条項の書き方
成績・合格と返金
なぜ変えるか成果を保証しないことの確認としては書ける。しかし、特定継続的役務提供に当たる場合は、法定の中途解約(特定商取引法49条1項)を妨げる特約は無効(同条7項)。
合格後の残りの期間
なぜ変えるか合格は、利用者が目的を達して利用を終える場合にあたる。前払いの未提供分を返さない定めは、特定継続的役務提供なら49条の上限を超える負担となり得て、そうでなくても消費者契約法9条1項1号・10条の検討対象になる。
返金の判断
なぜ変えるか事業者の判断に委ねる書き方は、利用者の権利を制限し、義務を加重する条項として、消費者契約法10条で争われやすい。条件を客観的に書く。
特定継続的役務提供に当たる契約では、利用者は、契約書面を受領した日から起算して8日を経過した後は、将来に向かって契約を解除できます(特定商取引法49条1項)。それまでの8日間は、理由を問わず解除できるクーリング・オフの期間です(同法48条1項)。8日経過後の中途解約があったときは、損害賠償額の予定または違約金の定めがあるときでも、役務の提供開始後であれば、提供された役務の対価相当額と、政令で定める額を合算した額に法定利率による遅延損害金を加算した金額を超える請求はできません(49条2項)。これらの規定に反する特約で利用者に不利なものは無効です(49条7項)。「返金しない」と書いても、この範囲では効力が及びません。上限額と精算の式の具体は学習塾・家庭教師の中途解約と返金のページにあります。
特定継続的役務提供に当たらない契約でも、消費者との契約であれば、消費者契約法が適用されます。解除に伴う損害賠償の額の予定や違約金の条項は、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効です(同法9条1項1号)。それ以外にも、民法の任意規定の適用による場合に比べて消費者の権利を制限し、または義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効です(同法10条)。前払いの授業料を、利用者の都合で終了した場合に一切返さないとする条項は、この規定の検討対象になります。
よくある疑問と答え 合格・成績と返金
「合格したら授業料は返さない。不合格なら一部返す」と書くことはできますか。
返金保証の条件としては、書き方の工夫の範囲です。ただし、合格・不合格の判断の基準と、返金額、申請の方法を契約の前に示しておく必要があります。法定の中途解約やクーリング・オフを妨げない旨も添えます。
「返金保証」を付けると、成果を約束したことになりますか。
返金保証の定めがあるだけで、成果の約束にはなりません。ただし、広告で「必ず合格」「絶対に伸びる」と打ち出すと、成果の約束と受け取られ、表示としても問題になります。保証は、成果ではなく返金の約束だと分かる書き方にします。
返金保証の条件を満たさない人から、返金を求められたらどうなりますか。
条件が契約の前に示されていて、その条件を満たしていないのであれば、特約に基づく返金を断ることは通常できます。ただし、法定の中途解約やクーリング・オフは別の権利なので、特約の条件とは別に検討します。
掲載の前に確認すること、残しておく記録
ここまでの内容を、広告や規約を出す前の確認の流れに直すと、次のようになります。広告の制作を外部に出している場合も、最終の確認は塾自身の責任で行います。
合格実績・体験記・保証を表示する前の確認
- STEP1
表示する数字の根拠を、名簿や受講の記録などで再現できますか。
はい次の段へ進む。いいえ再現できる状態になるまで、その数字は載せない。 - STEP2
「合格者」に数える生徒の条件(在籍の期間、受講の内容)を、文章で決めましたか。
はい次の段へ進む。いいえ定義を決めてから載せる。 - STEP3
母数、のべか実人数か、入試の種類、年度、集計の時点を、見出しの近くに、読める大きさで注記しましたか。
はい次の段へ進む。いいえ注記を入れてから載せる。 - STEP4
「No.1」「最大級」などの比較を使うなら、範囲・指標・時点・根拠を示せますか。
はい注記に範囲・指標・時点を書き、根拠の資料を保管する。いいえ比較の表現をやめ、自塾の実数と数え方を示す表示にする。 - STEP5
体験記・写真・氏名の掲載について、生徒と保護者の同意を書面で受けていますか。
はい同意書を保管し、撤回の方法も伝える。いいえ同意を取るまで掲載しない。 - STEP6
対価を渡して書いてもらった表示は、事業者の表示であることが一般の人に分かりますか。
はいそのまま掲載する。いいえ「広告」「PR」などの明示を求める。 - STEP7
保証の条件を、広告の見出しの近くと契約書の両方に、同じ内容で書いていますか。
はい契約の前に書面で示す。いいえ条件を広告に要約して載せ、契約書の条件と一致させる。
最後に、載せた数字の根拠資料を、表示をやめたあとも一定期間保管します。景品表示法では、課徴金対象期間が、表示をやめた日から6月を経過する日までの取引に及ぶことがあるためです(同法8条2項)。
規約の側では、広告で打ち出した保証や実績の内容と、契約書・規約の記載が食い違わないようにします。広告の更新のたびに契約書の返金条件を見直す、契約書を改定したときは広告の要約を直す、という往復の確認を、担当者の仕事として決めておくと、食い違いを防げます。入会の申込み書やウェブの申込みの画面には、保証の条件の要約と、規約の返金の条の場所を載せます。申込みの画面の表示は、学習塾・家庭教師の契約書面と概要書面のページの考え方と同じです。
起きがちなこと
よくあるご質問
塾の合格実績に、短期講習だけ受けた生徒の合格を含めてもよいですか。
含めること自体が一律に禁止されるわけではありませんが、通年で指導を受けた生徒の成果と受け取られるおそれがあります。見出しの近くに、集計の対象(通年の生徒か、講習のみの生徒を含むか)を注記し、可能であれば通年の生徒と講習のみの生徒を分けて数えるのが安全です。景品表示法5条1号は、実際のものよりも著しく優良であると示す表示を禁止しています。
「地域No.1」と表示するには、何が必要ですか。
比較する塾の範囲、指標(合格者数か、生徒数かなど)、集計の期間と時点を決め、他の塾の数字を同じ基準で把握できる根拠が必要です。根拠が示せないときは、「No.1」と言い切る表示は使わず、自塾の実数と数え方を示す表示にとどめます。消費者庁の「No.1表示に関する実態調査報告書」(令和6年9月)が、考え方を整理しています。
合格体験記を載せるとき、生徒と保護者のどちらの同意が必要ですか。
両方から取るのが安全です。氏名の表示の仕方、写真の有無、掲載の媒体と期間、撤回の方法を書面で確認します。掲載を撤回できること、撤回したら自ら管理する媒体から削除することも約束しておきます。
「成績が上がらなければ返金」と書くと、成績の向上を約束したことになりますか。
返金の定めがあるだけで、成績の向上を約束したことにはなりません。ただし、広告で「必ず上がる」と打ち出すと、成果の約束のように受け取られ、表示としての問題も生じます。条件を満たしたときに返金する任意の特約であることが分かる書き方にします。
「合格した場合は一切返金しない」と規約に書けば、合格後の解約でも返金しなくてよいですか。
そうとは限りません。特定継続的役務提供に当たる契約では、法定の中途解約を妨げる特約は無効です(特定商取引法49条7項)。当たらない契約でも、前払いの授業料の未提供分を返さない条項は、消費者契約法9条1項1号・10条の検討対象になります。合格後の精算の方法を、あらかじめ書いておくのが整理しやすい形です。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。特定商取引法・消費者契約法・個人情報保護法などの運用は、所管の行政機関の解釈や個別の事情によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 個人情報保護委員会 / 裁判所ウェブサイト