このページの要点
- 返金の対象は最終授業日の翌日以降に対応する受領済みの料金で、月謝・講習費・教材費・入塾金などを費目ごとに計算する。
- 通知は登録された連絡先へ個別に行い、掲示やウェブサイトだけでは足りない。返金の時期と方法、学習記録の扱いも伝える。
- 事業譲渡では契約上の地位の移転に保護者の承諾が要る(民法539条の2)。通知と異議申出の手続を重ねるとよい。
- 前払いが長いほど閉塾時の返金は大きい。特定継続的役務提供に当たる契約では、書面に前受金の保全措置の有無を書く。
結論:塾の側の事情で終えるときは、未提供の分を返し、期限に余裕をもって保護者に知らせる
閉塾、廃業、事業の譲渡はいずれも、保護者や生徒が辞めたいと言い出したのではなく、塾の側の事情で契約が終わる場面です。保護者からの中途解約では、塾が受け取れる金額に上限が設けられ、その範囲で精算します。塾の側から終える場合は、まだ授業を提供していない期間の料金を手元に残す理由が乏しく、前払いを受けている分は、提供していない部分に対応する額を返すのが基本になります。
規約には「経営上の判断でサービスを終了することがあります」と書かれていることが多くあります。ところが、その先の「通知はいつまでに、どの方法で行うか」「前受金(授業が始まる前に受け取っている料金)はどう計算していくら返すか」「事業を他社に譲るときに契約はそのまま引き継がれるのか」が空白のままの規約が目立ちます。閉塾の決断は一度しかしませんが、その時点で規約が空白だと、保護者への説明のたびに判断が必要になり、説明の食い違いが苦情に変わります。
このページでは、閉塾・廃業・事業譲渡の三つの場面を分け、前受金の返金の計算、保護者への通知、事業譲渡のときの契約と個人情報の扱い、資金が尽きる前に考えておくこと、よくある失敗と直し方、確認しておくことの順に整理します。保護者からの中途解約の上限と精算の式は学習塾・家庭教師の中途解約と返金のページで扱っているので、ここでは塾の側の事情で終わる場合に絞ります。
- 返金の対象は、最終授業日の翌日以降の期間に対応する、すでに受け取った料金です。月謝、講習費、教材費、施設利用費、システム利用料を費目ごとに分けて計算します。
- 通知は、契約者として登録されている保護者の連絡先に、個別に届く方法で行います。掲示やウェブサイトへの掲載だけでは足りません。
- 事業譲渡は、契約が自動的に引き継がれる仕組みではありません。契約上の地位を移すには、保護者の承諾が要ります。
- 前払いの期間が長いほど、閉塾のときに返す額が大きくなります。返金の原資は、運営が苦しくなる前に見通しを立てておく必要があります。
閉塾・廃業・事業譲渡は何が違うのか
三つの言葉は、日常ではまとめて「塾をやめる」と呼ばれますが、保護者との契約に起きることが違います。閉塾は、その教室での授業をやめることです。廃業は、事業主が事業そのものをやめることで、法人なら解散や清算を伴います。事業譲渡は、事業をほかの人や会社に引き継ぐことで、塾は続きますが、運営する主体が変わります。契約の相手方(保護者から見た「塾」)が変わるかどうか、前払い金を誰が持っているか、という二点で整理すると、規約に何を書くべきかが見えてきます。
三つの場面で保護者との契約に起きること(一般的な整理)
| 場面 | 契約の相手方 | 前受金 | 規約で決めておくこと |
|---|---|---|---|
| 閉塾・廃業(授業を提供する人がいなくなる) | 塾のまま。ただし以後の授業は提供されなくなる。 | 未提供分は返還の対象になる。 | 終了の事由、通知の期間と方法、返金の計算と時期、学習記録とデータの扱い。 |
| 事業譲渡(塾は続くが運営主体が変わる) | 契約上の地位が移れば、譲受側が相手方になる。移らなければ元の塾のまま。 | 譲受側に引き継ぐか、元の塾が返すかを選ぶ。 | 保護者の承諾の取り方、承諾しない人の退塾と返金、個人情報の移転の範囲。 |
| 教室の一部だけの閉鎖・統合 | 塾のまま。 | 通えなくなる人にだけ未提供分の問題が生じる。 | 移転先の教室を提示するか、解約と返金を選べるようにするか。 |
個人が運営する塾を法人にする場合などは、運営主体が変わるので事業譲渡に近い整理が必要になります。屋号だけを変えるのか、運営する人や会社まで変わるのかを最初に確認します。
前受金の返金はどう計算するのか
返金の額は、「受け取った額のうち、最終授業日までに提供した部分を除いた残り」です。月謝を毎月月末に翌月分を前払いしてもらっている塾なら、閉塾の月までは授業を提供し、その翌月分は丸ごと未提供なので全額返します。閉塾日が月の途中なら、その月の分を日割りで切り分けます。講習費は回数で、教材費は配布の有無で切り分けます。入塾金のように、授業と直接結びつかない名目の料金は、計算の考え方を先に決めておかないと争いになります。
費目ごとの返し方の考え方と計算例(金額は説明のための例です)
| 費目 | 返す額の考え方 | 計算例 | 注意したい点 |
|---|---|---|---|
| 月謝(前払い) | 最終授業日の翌日以降の日数に対応する額。月の途中なら、月額÷その月の日数×未提供の日数。 | 月額24,000円、閉塾日が11月10日(11月は30日)の場合、24,000円÷30日×20日=16,000円。 | 日割りの式は規約に書いておく。端数の処理(円未満の切捨てなど)も決める。 |
| 季節講習費(前払い) | 講習費÷全回数×未実施の回数。 | 全15回で90,000円、4回実施後に閉塾した場合、90,000円÷15回×11回=66,000円。 | 回数ではなく期間で提供する講習は、日数で切り分ける。契約時に適用した料金で計算する。 |
| 教材費 | 配布前の教材は全額、配布済みの教材は、塾の側の事情で終わる以上、返す設計が穏当。 | 3冊で12,000円(1冊4,000円)のうち1冊を配布済みなら、未配布の2冊分8,000円を返す。 | 教材をセットで販売しているときは、冊ごとの単価を契約時に定めておく。 |
| 施設利用費・システム利用料 | 月謝と同じく、最終授業日の翌日以降の期間に対応する額。 | 月額2,000円なら、前記の月謝と同じ日割りの式を当てはめる。 | 月謝に含めた請求とは別名目で受けている場合、計算の根拠を分けて示す。 |
| 入塾金 | 在籍した期間や、すでに行った準備の内容に応じた扱いを事前に決める。 | 例:入塾から短期間で閉塾となった場合に限り、在籍月数に応じた額を返す、など。 | 塾の事情で短期間に終わるのに全額を残す定めは、争いになりやすい。 |
| 振込手数料 | 返金のための振込手数料は、塾が負担する書き方が穏当。 | ― | 保護者から求められる前に、塾が負担することを通知に書いておく。 |
「提供済み」の線引きは、実際に授業を行った日です。欠席した日や振替待ちの授業は、提供していないものとして扱うのが無理のない整理です(欠席・振替の扱いは塾の欠席・振替のルールの決め方で扱います)。
計算の単価は、契約のときに実際に適用した料金です。まとめ払いで割引を受けた人の返金を、割引前の通常料金で計算し直すと、保護者に二重の不利益になります。契約時の単価で計算することを規約に書いておきます。
返金の経路も決めておきます。保護者本人名義の口座への振込みを原則とし、クレジットカード払いの人には決済事業者を通じた返金とし、利用明細への反映の時期が決済事業者の処理によって変わることを通知に書いておくと、問い合わせが減ります。分割払いの途中で閉塾になる場合、最終授業日の翌日以降の期間に対応する分は請求できません。規約に「サービス終了時点での未払い残額は塾が指定する方法で支払う」とだけあると、授業を提供しない期間の料金を請求する定めに読めます。
条文例塾の事情で運営を終えるときの通知と返金(一般的な例)
1当塾は、経営上の事情、授業を行う講師の確保が困難になったことその他やむを得ない事由があるときは、本サービスの全部又は一部を終了することができます。
2当塾は、前項により本サービスを終了するときは、終了する日(以下「最終授業日」といいます。)の○か月前までに、契約者として登録された保護者に対し、最終授業日、返金の対象と計算の方法、返金の時期と方法、学習記録の取扱いを、登録された連絡先への通知により知らせます。教室内の掲示及びウェブサイトへの掲載は、この通知に代えることができません。
3当塾は、前項の通知をした後は、新たな入塾の申込みの受付を行わず、最終授業日の翌日以降の期間に係る料金の前払いを受け取りません。
4当塾は、最終授業日の翌日以降の期間に対応する授業料、施設利用費、講習費その他の料金のうち、すでに受け取って未提供のものを、第○条に定める計算の方法により、最終授業日から○日以内に、契約者が届け出た口座への振込み又は決済事業者を通じた方法で返還します。振込手数料は当塾が負担します。
5契約者が分割払いを選択しているときは、最終授業日の翌日以降の期間に対応する未払いの料金を請求しません。当塾は、決済事業者に対し、請求の停止その他必要な連絡を行います。
6前各項による返還は、未提供の授業に対応する料金の精算であり、契約者が法令に基づいて請求できる損害賠償を制限するものではありません。
「○か月前」は、塾の学年構成や受験期に合わせて決めます。数字を規約に書いたときは、その期間を守れるように、閉塾を決める時期を逆算しておきます。
保護者にはいつ、何を、どの方法で知らせるのか
通知の基本は、「契約者として登録されている保護者に、個別に届く方法で、早めに、返金までの見通しを含めて知らせる」ことです。規約には、終了の2か月前までに通知する、30日前までに通知する、といった期間が書かれている例があります。この期間は、規約に書いた以上、最低限守るべき線になりますが、受験学年の生徒がいる塾では、その期間では足りないことがあります。進路の相談と転塾先の確保には、時間がかかるからです。
閉塾の決定から返金までの流れ(一般的な例)
「決めた直後」に前払いの受領を止めることが、返金額を増やさないための第一歩です。
通知の連絡先が古いことは、実務でよく起きます。入塾時に登録した携帯電話の番号やメールアドレスが変わっていると、通知が届きません。規約には「登録された連絡先に通知すれば到達したものとみなす」と書く例もありますが、これは通知の方法を決めた定めであり、実際に届かなかった保護者への返金を免れさせるものではありません。通知とあわせて、郵送や教室での手渡し、生徒を通じた案内文の配布など、複数の経路を使うことが望ましい場面もあります。
契約者が生徒本人になっている場合や、保護者の連絡先が別々の場合は、誰に通知するかが曖昧になります。契約の当事者の考え方は塾の契約は保護者と生徒どちらと結ぶのかのページが前提です。
通知文に入れる事項
- 最終授業日(最後に授業を行う日)と、その後は授業を提供しないこと。
- 閉塾に至った理由を、事実に沿って簡潔に。詳細な経営の内部事情を書く必要はありませんが、事実と異なる説明はしない。
- 返金の対象となる費目、計算の方法、返金の時期、方法、口座の届出の期限と届出の方法。
- 分割払いやカード払いの人に対する取扱い。
- 受験学年の生徒への対応(進路の相談の窓口、転塾の際の学習記録の提供)。
- 教材、答案、預かっている物の返却の方法と期限。
- 個人情報の取扱い(保管の期間、消去の時期、他社に移す場合はその範囲)。
- 閉塾後も問い合わせを受ける窓口と、その期間。
学習記録は、閉塾のときにこそ価値が出る情報です。生徒がほかの塾に移るときに、これまでの成績、模試の結果、学習の進度を引き継げるかどうかは、保護者にとって切実な関心事です。記録を渡す場合は、渡す相手(保護者または保護者が指定する塾)、渡す範囲、渡す方法を決めておきます。生徒の成績や面談の記録は、塾が取り扱う個人情報の中心であり、閉塾後にどこまで保管するかは、塾のプライバシーポリシーとも関わります(塾のプライバシーポリシーと子どもの個人情報のページで扱っています)。
閉塾は、講師にとっても契約が終わる場面です。業務委託の講師との契約が継続的な業務委託に当たる場合は、フリーランス法16条の解除の予告(少なくとも30日前まで)の対象になり得ます。講師との契約は塾講師との業務委託契約書、紹介や提携の先との契約は塾の講師・紹介パートナー・提携先との契約のページが前提です。
事業を他社に譲るとき、保護者との契約はそのまま引き継がれるのか
事業譲渡は、合併のように権利義務がまとめて移る仕組みではなく、譲渡の契約で定めたものを個別に移す仕組みです。保護者との授業の契約も、「譲渡の対象に入っている」というだけでは、当然に譲受側の契約にはなりません。契約の当事者の一方が、第三者との間で契約上の地位を譲渡する合意をしたときは、契約の相手方がその譲渡を承諾したときに、契約上の地位がその第三者に移る、と民法539条の2が定めているからです。保護者の承諾が、契約の引継ぎの要件になります。
保護者の人数が数十人、数百人となる塾で、一人ひとりから個別に同意書を集めるのは現実的でないため、規約に「事業を譲渡した場合、契約上の地位及び顧客情報を譲受人に移すことがあり、利用者はあらかじめ同意する」と書く例が広く見られます。あらかじめ同意を取っておく方法として、考え方としては成り立ちます。ただし、それだけに頼ると、次の三点で弱さが出ます。一つ目は、定型の規約に書かれた包括的な同意が、譲渡先が誰かも分からない時点で、どこまで保護者を拘束するのかという点。二つ目は、授業の内容や料金が変わる場合に、保護者が不利益を受ける点。三つ目は、承継に納得しない保護者が辞める道が用意されていなければ、不満が苦情に変わる点です。
事業譲渡のときの保護者の承諾の取り方(比較)
| 型 | 内容 | 利点 | 弱い点 |
|---|---|---|---|
| 包括同意型 | 規約にあらかじめ「事業譲渡の際は契約上の地位を移す」と書き、通知のみで移す。 | 手間が少ない。 | 譲渡先や条件が分からない時点の同意であり、争われたとき支えが弱い。承継に納得しない人の逃げ道がない。 |
| 通知と異議申出型 | 譲渡の前に譲渡先と条件を通知し、一定期間内に承諾しない旨の申出がなければ移す。申出があれば契約は終了し、未提供分を返す。 | 手間と保護者の意思の尊重のバランスがよい。 | 通知が届き、事項が足りていることが前提。通知の期間と異議の期間が短すぎないようにする。 |
| 個別同意型 | 一人ずつ書面(電磁的方法を含む)で承諾を取る。 | 保護者の意思が最も明確に残る。 | 人数が多いと負担が大きい。受け取れなかった保護者の扱いを決めておく。 |
実務では、包括同意の定めを置いたうえで、実際の譲渡のときに通知と異議申出の手続を重ねる組合せが使われています。
前受金の扱いは、事業譲渡の契約でも交渉の的になります。保護者から前払いを受けている授業は、塾の側から見れば「これから提供する義務」です。譲受側が授業を引き継ぐなら、授業を行う義務と、それに対応する前受金を、あわせて譲受側に移すのが筋が通ります。譲渡の代金を決めるときに、前受金の額を織り込んで精算し、前受金に相当する金額を譲受側に引き渡す定めを置きます。移さない場合は、元の塾が保護者に返すことになります。保護者から見て、返金の請求先がどちらになるのかが不明確だと、「元の塾に聞いてください」「新しい塾に聞いてください」の押し付け合いになりやすいため、通知にどちらが返金するのかを明記しておきます。
譲り受けた会社が、譲り渡した会社の商号を引き続き使用する場合には、譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うとする会社法の定めがあります。この責任は、遅滞なく、責任を負わない旨を登記したり、第三者に通知したりすることで免れる仕組みも、同じ法律に置かれています。商号を続用しなくても、債務を引き受ける旨の広告をしたときは、債権者は譲受会社に請求できるとする定めもあります。保護者への返金債務が「事業によって生じた債務」に当たり得ることを踏まえ、譲渡の契約で債務の範囲と、商号を続けるか、通知をするかを決めます。個人が営む塾の場合は、会社法ではなく別の法律が関わるため、どの法律が適用されるかを確認してから書面を整えます。
個人情報の移転も、事業譲渡の中心的な論点です。個人情報保護法は、合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合の提供を受ける者を、第三者提供の制限の適用上の「第三者」に当たらないとしています(27条5項2号)。つまり、事業譲渡では、保護者の同意を個別に取らなくても、個人データを譲受側に渡せる場合があります。ただし、承継を受けた側は、承継前の利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うには、あらかじめ本人の同意が必要です(18条2項)。譲受側が、引き継いだ保護者の連絡先を使って自社の別の教室の宣伝を送るのは、この範囲を超え得ます。子どもの成績や面談の記録を含む情報を引き継ぐため、保護者への通知で、引き継ぐ情報の種類と使い道を示しておくのが適切です。
条文例事業譲渡のときの保護者への通知と承諾(一般的な例)
1当塾は、本サービスに係る事業を第三者(以下「承継先」といいます。)に譲渡するときは、譲渡の日の○か月前までに、契約者に対し、承継先の名称及び所在地、譲渡の日、引き継がれる契約の内容(授業の内容、料金、前払いした料金の取扱い)、引き継がれる個人情報の項目及び利用目的を通知します。
2契約者は、前項の通知を受けた日から○日以内に、当塾所定の方法により、承継を承諾しない旨を申し出ることができます。
3前項の申出があったときは、契約者と当塾との契約は譲渡の日に終了し、当塾は、譲渡の日の翌日以降の期間に対応する未提供の料金を、第○条により返還します。
4第2項の申出がないときは、契約者が契約上の地位を承継先に移すことを承諾したものとして取り扱います。ただし、第1項の通知に同項の事項が含まれていなかったときは、この限りではありません。
5契約者から受け取った料金のうち未提供のものは、契約上の地位が移る契約者に係る分に限り、承継先に引き渡します。承継先は、引渡しを受けた料金に対応する授業を提供します。
6当塾は、承継先に対し、第1項で通知した項目の範囲を超えて個人情報を提供しません。承継先における個人情報の利用目的は、承継前の利用目的の範囲を超えないものとします。
「申出がないときは承諾したものとして取り扱う」とする場合、通知が届いていることが前提です。通知の到達を確認できなかった保護者については、個別の連絡で補います。
資金が苦しくなったとき、前受金についてどう考えるのか
閉塾の理由が資金の不足のときは、返金の原資が足りなくなる可能性があります。ここで問題になるのが、前受金の保全です。学習塾は、一定の期間を超え、一定の金額を超えて提供する場合、特定商取引法の特定継続的役務提供に当たります(判定は学習塾・個別指導の開業と特定継続的役務提供のページ)。当たる前払いの取引では、契約書面に、前受金の保全措置の有無を書き、保全措置を講じているときはその内容も書くことになっています(消費者庁の注意喚起による)。保全措置は、金融機関の保証などにより、事業者が倒産した場合でも、一般債権者に優先して弁済を受けられるようにする仕組みとされています。
保全措置を講じていない塾が経営破綻し、保護者が返金を受けられなかった例が、消費者庁の注意喚起でも指摘されています。塾が法的な整理に入ると、保護者の返金請求は、ほかの債権者と同じ立場の債権として扱われるのが原則であり、前払いした全額が戻るとは限りません。保護者の側の損失を小さくするには、前払いの期間を短くすることが効果的です。年間や半期の一括払いを割引で勧める塾は閉塾の際に返す額も大きくなります。割引の設計は、閉塾のときの返金の負担と合わせて考えます(料金の組み方は塾の月謝・入塾金・教材費の決め方のページで扱っています)。
閉塾を決めた後、あるいは見通しが立った後の、保護者との接し方にも注意が要ります。閉塾の予定を知りながら、「来年度もこの教室で続けます」「春期講習の申込みは今のうちが得です」と案内して前払いを受け取ると、事実と異なる説明として、契約の取消しの問題になり得ます(消費者契約法4条1項1号)。閉塾を決めたら、新たな前払いの受領を止め、決まっていることを早めに知らせるのが筋です。
よくある失敗と直し方
閉塾や終了の条項では、次のような書き方がよく見られます。「経営上の判断で終了でき、損害は一切負担しない」と書けば塾を守れる、という発想が出発点ですが、保護者との関係では、消費者契約法の面から効力が疑われる書き方になりがちです。債務不履行(契約どおりに履行しないこと)により生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項は、消費者契約では無効とされます(8条1項1号)。「故意又は重大な過失による場合を除き責任を負わない」と書いても、軽い過失の場合の責任を全部免除する条項として無効になるので、責任の一部を免除するなら、その条項の中で、重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしておく必要があります(同条3項)。
書き方の例(一般的な例) 閉塾・事業終了の条項
終了の事由と返金
なぜ変えるか塾の側の事情で授業を提供できなくなるのに、未提供の期間の料金を返さない定めは、消費者契約法10条により無効とされるおそれがあります。返還の方法まで書くほうが、保護者への説明も一貫します。
返金の時期と方法
なぜ変えるか「当塾の定め」としか書いていないと、返金が遅れても理由が説明できず、苦情の原因になります。期限と方法を具体的に書きます。
終了に伴う責任
なぜ変えるか債務不履行の責任の全部を免除する条項は、消費者契約法8条1項1号により無効です。返還の義務と損害賠償の責任を別に書き、免責の幅を狭めないようにします。
未払いの残額
なぜ変えるか授業を提供しない期間の料金を、閉塾後も請求できる定めに読めます。未提供分は請求しないことを明記します。
事業譲渡の承諾
なぜ変えるか契約上の地位の移転は、相手方の承諾が要ります(民法539条の2)。あらかじめの同意だけでなく、譲渡の内容を示したうえで、承諾しない人が辞められる道を用意します。
ヒヤリングで確認すること、そして起きがちなこと
閉塾や事業譲渡の書類を整えるときは、次の事項を最初に確かめます。どれも、規約に書く内容と通知の文面を決めるための材料です。
あらかじめ確かめること 閉塾・廃業・事業譲渡の書類を作る前に
どのような形で前払いを受けていますか(月謝の翌月分、半期、年間、講習費、回数券)。
返金額の大きさと、計算の式が決まります。年間の一括払いが多い塾は、閉塾のときの返金の負担が大きくなります。
前受金の残高を、保護者ごと・費目ごとに出せますか。
残高が出せないと、通知に返金額を示せません。閉塾を決める前に把握しておくことで、返金の見通しが立ちます。
契約者は保護者ですか、生徒本人ですか。連絡先は最新ですか。
通知を誰に送るか、返金を誰の口座に振り込むかの前提です。連絡先が古いと、通知が届きません。
支払いの方法は何ですか(口座振替、カード、決済代行、分割払い)。
返金の経路と、分割払いの途中の取扱いが変わります。決済事業者への連絡が必要な場合があります。
閉塾の形は何ですか(全面的に閉じる、事業を譲る、一部の教室だけ閉じる、運営主体が変わる)。
契約の相手方が変わるか、保護者の承諾が要るか、規約に書く内容がどれになるかが決まります。
他社に引き継ぐ場合、引き継ぎたい情報の範囲はどこまでですか(連絡先、成績、面談の記録、健康に関する情報)。
個人情報の移転の範囲と、保護者への通知の事項が決まります。承継先の利用目的も確認します。
受験学年の生徒は何人いますか。いつまでに通知できますか。
規約の最低期間を満たすだけでよいか、それより早く知らせる必要があるかを判断する材料です。
特定継続的役務提供に当たる契約はありますか。前受金の保全措置を講じていますか。契約書面にどう書きましたか。
書面の記載と実際の対応が食い違っていると、保護者への説明に支障が出ます。
回答の内容によって、規約の条文と通知文の両方が変わります。通知文は、規約に書いた手順と同じ順序で書くと、後から整合性を確かめやすくなります。
よくあるご質問
塾を閉じることを、保護者にはいつまでに知らせればよいですか。
まず、規約に定めた期間(30日前や2か月前の例があります)を下回らないことが最低限です。受験学年の生徒がいる塾では、進路の相談と転塾先の確保に時間がかかるため、規約の期間よりも早く、個別の通知で知らせるほうが、保護者の理解が得られやすくなります。
前払いの授業料は、閉塾のときに全額返すのですか。
全額ではなく、最終授業日の翌日以降の期間に対応する、まだ提供していない部分を返します。月の途中の閉塾は日割り、講習費は回数、教材費は配布の有無で切り分けます。割引を受けた人の返金は、契約時に適用した単価で計算します。
事業を他社に譲るとき、保護者の同意は必要ですか。
契約上の地位を譲受側に移すには、契約の相手方である保護者の承諾が要ります(民法539条の2)。規約にあらかじめの同意を書く例がありますが、それだけに頼らず、譲渡の前に承継先と条件を通知し、承諾しない人が辞められる手続を併せて置くのが無理のない方法です。
生徒の成績や連絡先を譲渡先に渡してもよいですか。
個人情報保護法には、事業の承継に伴って個人データが提供される場合の提供先を第三者としない定めがあります(27条5項2号)。ただし、承継した側は承継前の利用目的の範囲を超えて使うには本人の同意が必要です(18条2項)。引き継ぐ情報の種類と使い道を、保護者に通知しておきます。
前受金の保全措置とは何ですか。
金融機関の保証などにより、事業者が倒産した場合でも、前払いした料金の返還を受けられるようにする仕組みです。特定継続的役務提供に当たる前払いの取引では、契約書面に保全措置の有無を書き、講じているときはその内容も書くことになっています。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。特定商取引法・消費者契約法・個人情報保護法などの運用は、所管の行政機関の解釈や個別の事情によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 個人情報保護委員会 / 裁判所ウェブサイト