このページの要点
- 契約者(保護者)・利用者(子ども)・連携者(保護者や講師)を別の言葉で定義し、条ごとに主語を合わせる。
- 登録・ログインの方式で同意の取り方が変わる。民法5条の取消しと、個人情報保護委員会Q&Aの年齢の目安(12歳から15歳までの年齢以下)を踏まえて設計する。
- 利用ポイントは名称ではなく実態で判断する。有効期間が6か月以内なら適用除外、長期で有償販売するなら基準日未使用残高1,000万円超で届出(資金決済法)。
- 学習履歴の消失・AIの誤りの免責は、軽い過失の責任の一部免除(上限方式)にとどめ(消費者契約法8条)、書いた運用を実際に行う。
結論:子どもが使う学習アプリの規約は「契約する人・使う人・見る人」を分けるところから書く
小学生や中学生が使う学習アプリ、オンラインで問題を解く教材サービス、AIが問題や解説をつくる学習サービスの利用規約は、大人向けのアプリの規約を子ども向けに言い換えただけでは足りません。大人向けの規約は「利用者は自分で判断して同意する人である」という前提で書かれていますが、子どもが使うサービスでは、その前提がそのままは成り立たないからです。料金を払うのは保護者、画面を見て答えるのは子ども、学習の様子を見るのは保護者や講師や先生、という三者がいて、規約のどの条がだれに関係するのかが条ごとに違います。
このページでは、子ども向けの学習アプリ・オンライン教材サービスの規約で論点になりやすい五つの場面を順に整理します。年齢と保護者の同意(登録やログインの方式との関係)、料金・自動更新・利用ポイント(クレジット)の扱いと資金決済法、学習履歴が消えたときの責任、AIが作る問題や解説の誤り、保護者や講師との共有機能と投稿データ、の五つです。記載は一般的な情報であり、特定の事業者の運用を示すものではありません。
規約に出てくる三者を、最初に分けておく
契約する人(契約者)
料金を払い、解約できる人
多くの場合は保護者です。未成年者が単独で結んだ契約は、法定代理人の同意がなければ取り消すことができるため(民法5条1項・2項)、契約者を子どもにしたままの規約は土台が不安定になります。
使う人(利用者)
画面を見て答え、学習履歴が生まれる人
子ども本人です。解答、作文、音声、手書きの画像などの学習データの「本人」でもあります。同意の取り方、投稿の権利、個人情報の扱いは、この人を基準に考えます。
見る人(学習管理者)
学習履歴を見て声をかける人
保護者、塾の講師、学校の先生などです。子どもの学習履歴をだれがどこまで見られるか、見られていることを子どもに知らせるかを決めるのは、この人たちとの共有機能です。
同じ「ユーザー」という言葉を三者に使うと、同意の主体も責任の相手も曖昧になります。規約の定義の条で、三者を別の言葉で書き分けるのが出発点です。
塾の教室に通う生徒向けの規約の作り方は塾の利用規約の作り方、オンライン授業の通信障害や録画はオンライン個別指導の利用規約、子どもの個人情報の扱い全般は塾のプライバシーポリシーのページで扱っています。このページは、それらと重ならないように、アプリ・教材サービスに固有の部分に絞ります。契約の当事者を保護者とするか生徒とするかの基本は保護者と未成年者のページが前提になります。
- 対象年齢と、登録・ログインの方式を決める(保護者がアカウントをつくるのか、子どもが外部のIDで入るのか、塾が配るのか)。
- 料金、自動更新、利用ポイントの性質を整理する(ポイントが前払式支払手段に当たるかの検討を含む)。
- 学習履歴・生成物の保存と消失の責任を、実際の運用に合わせて書く。
- AIが作る問題・解説の誤りへの対応と、外部のAIへ送る情報の範囲を決める。
- 保護者・講師との共有の範囲と、投稿データの権利を決める。
この順番は、決めた内容が次の条に影響するという流れでもあります。登録の方式が決まらないと同意の取り方が書けず、同意の取り方が決まらないと課金の条の「だれが申し込んだか」が決まりません。料金の仕組みが決まらないと返金とデータの扱いが書けない、という具合に、前の項目が後ろの項目の土台になります。
対象年齢と保護者の同意:登録とログインの方式で、同意の取り方が変わる
子ども向けの規約でいちばん先に決めるのは、「何歳の人が、どのような方法で登録するか」です。対象年齢の書き方は、「18歳未満の方は保護者の同意を得たうえで利用する」と一言書く形から、小学生向けに保護者のアカウントの下で子どものプロフィールをつくる形まで、サービスの設計によって大きく違います。ここを曖昧にしたまま課金やデータの条を書くと、あとの条がすべて「同意はだれがしたのか」という問いに戻ってきます。
法律の側から見ると、押さえる点は二つあります。一つは民法です。未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意が必要で、同意のない法律行為は取り消すことができます(民法5条1項・2項)。成年は18歳です(民法4条)。ただし、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内で未成年者が自由に処分できるとされており(同条3項)、お小遣いの範囲の買い物がどこまで自由かは、この規定の当てはめになります。アプリ内の課金がこの範囲に入るかは事案ごとの判断で、事業者の側で「お小遣いの範囲内だ」と決めてしまうことはできません。
もう一つは個人情報保護法です。現行の個人情報保護法には、子どもの同意の年齢を定めた条文がありません。個人情報保護委員会のQ&A(A1-62)は、法定代理人等から同意を得る必要がある子どもの具体的な年齢は、対象となる個人情報の項目や事業の性質等によって個別具体的に判断されるべきとしつつ、一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子どもについて、法定代理人等から同意を得る必要があると考えられる、と説明しています。したがって、小学生が使うサービスでは、子どもの個人情報の取得や利用について、保護者の同意を取る設計にしておくのが自然です。なお、令和8年法律第56号(個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律)には、16歳未満の者の個人情報の取扱いに関する規定が含まれています。この部分の施行日は、公布の日から2年を超えない範囲で政令で定める日とされ、現時点では施行されていません。したがって、この章で述べる現行の扱いは施行日の前までのものです。施行の時期と具体的な内容(保護者の同意を要する範囲、例外、確認の方法など)は、施行令・個人情報保護委員会規則と委員会の公表資料で、規約をつくる時点の内容を確認します。
登録・ログインの方式ごとの同意の取り方(一般的な整理)
| 登録の形 | 同意の取り方 | 規約に書くこと | 注意したい点 |
|---|---|---|---|
| 保護者がアカウントをつくり、子どものプロフィールを追加する型 | 保護者が登録時に規約とプライバシーポリシーへ同意する。子どもは保護者のアカウントの配下で使う。 | 保護者が契約者であること、子どもの利用は保護者の責任で管理すること、プロフィールの追加と削除の方法。 | 保護者の確認メールが子どもの端末に届く設計だと、子どもが自分で承認できてしまう。保護者であることの確認方法(決済時の本人認証など)を決めておく。 |
| 子ども本人が外部のIDでログインする型 | 同意画面に「保護者の同意を得ています」の確認欄を置いても、確認は自己申告にとどまる。 | 対象年齢、保護者の同意の表明、同意がないときは使えないこと、事業者が確認を求めることがあること。 | 外部のIDを発行するサービス側にも年齢の条件がある。外部のIDから取得する情報の範囲も、規約とプライバシーポリシーに書く。 |
| 塾や学校がIDをまとめて発行して配る型 | 塾や学校が保護者から同意を取り、事業者は塾・学校との契約で責任を分ける。 | 事業者・塾・保護者の三者の関係、IDの発行と停止の権限、退塾や卒業のときの扱い。 | 事業者と塾の関係が、塾から取扱いを委託されているのか、事業者が自分の目的でも使うのかで、個人情報の説明の書き方が変わる(個人情報保護法25条の委託先の監督を参照)。 |
三つの型は組み合わせることもあります。たとえば、塾が配るIDで入っても、有料のオプションだけ保護者が自分で申し込む設計なら、二つの型の規約が必要になります。
ログインの方式は、規約の「同意の取り方」を決めてしまう設計上の選択でもあります。子ども本人が外部のIDでワンタップでログインできる設計は、使い始めの手間が少ない代わりに、保護者の同意を確かめる場面がどこにもありません。確認欄を一つ置くだけで済ませるのか、保護者のメールアドレスを入力させて確認の連絡を送るのか、有料プランの申込みの段階で保護者の確認を入れるのかは、取得する情報の量と課金の有無に合わせて選びます。無料の範囲では本人の端末内の学習記録だけを扱い、アカウント登録と有料プランの申込みの段階で保護者の確認を入れる、という段階を分けた設計もあります。
「未成年者が利用する場合は、保護者の同意を得たものとみなす」という書き方は、規約によく見られます。同意があったと推定する趣旨であれば、運用上の整理としては分かります。しかし、実際には同意がなかった場合に、取消しの余地を規約の文言だけでなくせるわけではありません。同意の確認方法を設計に組み込み、確認の記録を残しておくほうが、実際の場面では支えになります。
条文例対象年齢と保護者の同意(保護者が契約者となる型の例)
1本サービスの契約者は保護者(親権者その他の法定代理人をいいます。以下同じです。)とします。保護者は、利用者である子どもに本サービスを利用させる前に、本規約およびプライバシーポリシーの内容を理解し、これに同意するものとします。
2本サービスの対象は、○歳以上○歳以下の方とします。対象外の年齢の方は、本サービスを利用することができません。
3利用者は、保護者が作成した利用者用のプロフィールを通じて本サービスを利用します。保護者は、プロフィールの作成、変更および削除について責任を負います。
4当社は、保護者であることの確認のため、登録情報の追加の提供を求めることがあります。確認ができないときは、当社は、本サービスの全部または一部の提供を停止することができます。
年齢の数字は、サービスの内容と取得する情報に合わせて決めます。○は、決めた数字を入れるための空欄です。
あらかじめ確かめること 登録とログインを決めるとき
サービスを使う中心の年齢は何歳くらいですか。
同意の取り方と、画面の文章の難しさを決める手がかりになります。小学校低学年が使うなら、保護者が設定する前提で設計します。
登録は、保護者のアカウントからですか。子ども本人ですか。塾や学校がまとめて発行しますか。
上の三つの型のどれになるかで、規約の「契約者」と「同意」の条の書き方が変わります。
外部のIDでのログインを使いますか。その場合、外部から受け取る情報は何ですか。
氏名・メールアドレス・プロフィール画像などを受け取るなら、取得する情報としてプライバシーポリシーに書く必要があります。
有料プランの申込みや決済は、だれの手で行われますか。
子どもの端末から課金できる設計だと、取消しのリスクが高まります。決済の段階で保護者の確認を入れる方法を検討します。
契約の成立・料金・自動更新と、利用ポイント(クレジット)
月額・年額のサブスクリプションで提供する学習アプリでは、料金の条が規約の中心になります。書くことは、料金の金額、支払いの方法、更新の周期と自動更新であること、解約の方法と期限、解約後にいつまで使えるか、日割りの返金の有無、の六つです。金額は、利用者向けの価格として消費税を含む総額で表示します(消費税法63条。免税事業者を除く)。税抜価格を併記する場合も総額が明瞭に分かるようにします。
契約が成立する時点は、登録が完了した時点なのか、事業者が登録を承認した時点なのか、有料プランの決済が完了した時点なのかを、規約の中で一つに決めて書きます。無料の登録と有料プランの申込みは別の契約なので、成立の時点も別に書くことになります。規約の中でこの時点がばらばらだと、無料トライアルの途中で解約したのか、有料プランに入ったあとで解約したのかが、争いになったときに決まりません。契約の成立時点の考え方は、塾の利用規約の作り方のページと同じ整理です。
画面上の表示にも、法律上の決まりがあります。ウェブ上で有料サービスの申込みを受けるとき(特定申込み)は、申込みの手続が表示される画面(実務上は申込みの最終確認の画面)に、役務の分量、対価、支払の時期と方法、提供の時期、申込みの期間に関する定めがあるときはその内容、申込みの撤回や解除に関する事項を表示する必要があります(特定商取引法12条の6第1項、11条1号〜5号)。申込みになることを誤認させる表示や、これらの事項について人を誤認させる表示は禁止されています(12条の6第2項)。無料お試しの期間が終わると自動的に有料に移ることも、これらの事項に関わるため、その画面で目立つように示します。無料お試しの案内だけを大きく見せて、有料に移ることを小さく書く画面は、特定商取引法の誤認表示の問題だけでなく、景品表示法5条2号(取引条件を実際より著しく有利と誤認させる表示)の問題にもなり得ます。
アプリストアを通じた課金にする場合は、決済・自動更新・返金の手続の一部が、ストアの定める条件に従うことになります。規約には、そのことと、解約はストアのアカウントの設定画面から行うことを書きます。ただし、ストアの返金条件を理由に、「事業者は返金に一切関与しない」と書けば足りるとは限りません。事業者側の不具合でサービスが提供できなかったときの対応や、法令により返金が必要となる場合は、ストアの定めとは別に、事業者として何をするかを決めておく必要があります。「いかなる理由があっても返金しない」と書く条項は、消費者契約法10条の対象として、争われやすい書き方です。料金の仕組みの一般論は月謝・入塾金・教材費の決め方のページに、規約の変更の手続は塾の利用規約の作り方のページにあります。
人による指導を組み合わせた有料プラン、たとえば講師の個別指導やオンライン面談を付けるプランを設けると、特定継続的役務提供の判定が必要になることがあります。判定は、業種、学力の教授であるか、対象、場所、期間と金額の順に進めます。判定の順番は学習塾・個別指導の開業と特定継続的役務提供のページで説明しています。アプリの利用だけで人による指導のないプランと、人の指導を付けたプランを別のプランとして整理すると、規約の書き分けがしやすくなります。
利用ポイント(クレジット)は、生成AIの利用や、解説の表示、教材のダウンロードなどの回数に応じて消費する仕組みで、規約に「金銭的価値を有しない」と書かれることがあります。しかし、資金決済法の「前払式支払手段」に当たるかどうかは、規約の書き方ではなく、実際の発行のしくみで判断されます。条文の定義(資金決済法3条1項)は、金額または物品・役務の数量に応じた「対価を得て発行される」ものであって、発行者から物品等を買ったり役務の提供を受けたりするときの代価の弁済などに使えるもの、という形になっています。発行者が自分のサービスにだけ使えるものは「自家型前払式支払手段」です(同条4項)。
ポイント(クレジット)の型ごとの検討の入口(一般的な整理)
| ポイントの型 | 前払式支払手段の検討 | 規約の書き方の方向 |
|---|---|---|
| 月額料金に含まれて毎月付与され、翌月に失効する | 有効期間が発行の日から6か月以内のものは、前払式支払手段の規定の適用が除外されている(資金決済法4条2号、同法施行令4条2項)。毎月の失効が6か月以内に収まるかを確認する。 | 付与の数、失効の時期、繰り越しの有無、システム不具合で消費された場合の戻しを書く。 |
| 料金とは別に購入でき、長い有効期間がある | 対価を得て発行され、役務の提供を受ける際の代価として使えるため、前払式支払手段に当たり得る。未使用残高が基準日(毎年3月31日と9月30日)に1,000万円を超えると、届出と発行保証金の供託などの義務が生じる(同法5条1項、14条1項、同法施行令6条)。 | 有効期間、払戻しの条件、失効の取扱いを書く。残高が増える見込みのサービスでは、設計の段階で届出の要否を確認する。 |
| 対価を受けずに無償で付与する(キャンペーン・アンケートの謝礼など) | 「対価を得て発行」の要件を欠く場合は、前払式支払手段に当たらない。ただし、有償のポイントと無償のポイントを同じ財布で管理していると、区別が曖昧になる。 | 有償と無償を分けて書く。無償分には、付与の条件、有効期間、事業者が変更できることを書く。 |
ポイントの性質は、名称ではなく、対価の有無、数量や金額の表示、使用できる範囲、有効期間といった実態で判断されます。規約の「ポイントは金銭的価値を有しません」という文言だけでは、結論は変わりません。
ポイントの条では、失効、返金、譲渡の扱いも書きます。一度消費したポイントは戻さない、アカウント間で譲渡できない、換金できない、という定めは、運用の整理として自然です。もっとも、通信エラーや生成処理の失敗など、事業者側の事情でポイントが消費された場合に、消費を取り消して戻すことを書いておくと、利用者との行き違いを減らせます。「理由の如何を問わず返却しない」と書くと、事業者の不具合による場合まで含むことになり、消費者契約法10条の問題になり得ます。書き方の例は、後ろの「学習履歴の消失」の章の免責の考え方と同じです。
学習履歴の消失・破損:免責の書き方と、書いたとおりの運用
学習アプリで利用者が最も困るのは、積み重ねた学習履歴が消えることです。解答の記録、間違えた問題の一覧、連続学習の日数、作文や手書きの記録などは、子どもにとっても保護者にとっても価値のあるデータです。ところが、アプリの規約には「データの消失について当社は一切責任を負わない」「バックアップは保証しない」という定めがよく置かれます。事業者の気持ちは分かりますが、書き方によっては、定め全体が無効になったり、規約全体の信用に関わったりします。
消費者契約法8条1項は、事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項(1号)、故意または重大な過失による場合の責任の一部を免除する条項(2号)を無効としています。不法行為による場合も同様です(3号・4号)。さらに、故意・重過失を除く場合の責任を一部免除する条項は、その条項が故意・重過失を除く過失にのみ適用されることを明らかにしていなければ、無効になります(同条3項)。「一切責任を負わない」は1号にあたり、「当社の責任は、利用料金の総額を上限とする」だけの上限条項は、故意・重過失の場合に適用されるかどうかが書かれていなければ、2号と3項の問題になります。事業者に債務不履行があれば、損害賠償の責任が生じ得ること自体は、民法415条が定めています。
書き方の例(一般的な例) 学習データの消失に関する免責
データ消失の責任
なぜ変えるか全部免責は消費者契約法8条1項1号で無効。故意・重過失を除くことを明示し、上限を「軽い過失の場合の責任の一部免除」として整える。
バックアップの有無
なぜ変えるか書いた運用が実際に行われていないと、規約の記載がそのまま責任の根拠として使われる。実際にしていることだけを書く。
端末の変更・アカウントの統合
なぜ変えるか引継ぎの方法を案内していないのに、責任だけ利用者に負わせる書き方は、利用者の利益を一方的に害するとして争われやすい。案内と責任をセットにする。
書き方に加えて、実際に何を保存し、どれだけの期間保存するかも決めます。クラウドに同期して保存するのか、端末の中だけに保存するのか、退会したあとの保存期間は何日か、退会前に学習履歴を書き出せるのか、を整理します。個人情報保護法は、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう努めることを求めています(22条)。保存期間を無期限にして残し続けるのは、この点からも説明がつきません。
サービスを終了するときのデータの取り出しも、規約に書いておく項目です。サービスの全部または一部を終了する場合の予告の期間、終了までの間に学習履歴を書き出せる機会、前払いの料金の未使用分の扱いを書きます。「事業者の判断でいつでも終了でき、損害について責任を負わない」とだけ書くと、有料プランで前払いを受けている場合に、返金を一切しない定めとして争われやすくなります。
条文例学習データの保存と消失(一例)
1当社は、利用者の学習データ(解答の記録、学習の履歴、利用者が保存した作文その他のデータをいいます。以下同じです。)を、本サービスの提供のために保存します。保存の期間は、退会の手続が完了した日から○日間とします。
2当社は、学習データの保存、バックアップまたは復旧を保証しません。ただし、当社の故意または過失による場合は、この限りではありません。
3利用者は、退会の前に、サービス内の所定の方法により、学習データの書き出しを請求することができます。
4当社は、本サービスの全部または一部を終了するときは、終了の日の○日前までに、サービス内への掲示またはメールにより通知します。終了の日までの間、利用者は学習データの書き出しを請求することができます。
AIが作る問題・解説:誤りへの対応と、外部のAIへ送る情報
AIが問題や解説をつくる学習サービスでは、「AIの出力は誤りを含む場合がある」と規約に書くことが当然のようになっています。この書き方は必要ですが、子ども向けのサービスでは、それだけでは足りません。大人の利用者は、誤りに気づいて自分で確かめる前提がありますが、子どもは、画面に出た解説を正しいものとして覚えます。誤りが見過ごされたまま学習が進むと、損害は「誤った内容を覚えた」という形で、気づきにくく残ります。
規約に書いておくべきことは、四つに整理できます。第一に、AIの出力は誤りを含み得ること、正確性・完全性を保証しないこと。第二に、誤りを見つけたときに知らせる方法(報告のボタンや窓口)と、報告を受けたときの対応(訂正・削除に努めること)。第三に、人による確認がある場合は、その範囲を実際の運用のとおりに書くこと。第四に、保護者や講師が学習の様子とあわせてAIの出力を確認できること。AIを使った学習の効果をうたう表示は、景品表示法5条1号(品質の優良誤認)の問題にもなり得るので、効果の表示は塾の合格実績・成績保証・合格保証の表示のページの考え方に沿って、根拠を整理してから書きます。
「人が確認している」と書くときは、確認の範囲を正確に書きます。すべての出力を人が確認するのか、サービスに載せる前に問題のひな形だけを人が確認するのか、利用者から報告があったものだけを確認するのか、によって、利用者が受け取る安心は大きく違います。確認の範囲を実際より広く見せる書き方は、品質についての誤認につながります。確認していない部分があるなら、「AIが自動で生成するため、誤りを含む場合があります」と、その部分に限って正直に書くほうが、結果としてトラブルを減らします。
条文例AIが生成する問題・解説の取扱い(一例)
1本サービスは、人工知能(AI)の技術を用いて、問題、解説、ヒントその他の学習用コンテンツ(以下「AI生成コンテンツ」といいます。)を生成して提供します。
2AI生成コンテンツは、誤り、不正確な内容、不適切な表現を含む場合があります。当社は、AI生成コンテンツの正確性、完全性、学習成果への有用性を保証しません。
3利用者または保護者は、AI生成コンテンツに誤りまたは不適切な内容を見つけたときは、サービス内の所定の方法により、当社に報告することができます。当社は、報告を受けたときは、内容を確認のうえ、訂正または削除に努めます。
4当社は、AI生成コンテンツのうち、○○については、公開前に人が確認します。それ以外のAI生成コンテンツは、人による確認を経ずに提供されます。
第4項の「○○」には、実際に人が確認している範囲を書きます。確認していない範囲を確認済みと読める書き方にしません。
外部のAIサービスを使って生成する場合は、子どもが入力した内容や、学習の履歴が外部に送られます。個人情報保護法は、個人データを第三者に提供するときは原則として本人の同意を求めますが(27条1項)、利用目的の達成に必要な範囲で取扱いを委託することに伴って提供するときは、受け取る側は第三者に当たらないとされています(同条5項1号)。委託の場合は、委託先に対する必要かつ適切な監督が必要です(25条)。外国にある第三者に提供する場合は、外国の制度などの情報提供を前提に、本人の同意などを得る必要があります(28条)。外部のAIの事業者が外国にあって、その事業者が入力内容を自社のAIの学習に使うのかどうかで、規約とプライバシーポリシーに書く内容が変わります。
子ども向けのサービスで、自由記述の入力欄や音声の入力欄がある場合は、子どもが自分の氏名・学校名・住所などを書いてしまうことを想定して、入力欄に注意書きを置く、個人を特定する情報を外部に送る前に取り除く、といった設計を検討します。また、アプリが端末内の情報を外部に送信する仕組みを使う場合は、電気通信事業法の外部送信に関する規律(27条の12)の対象になるかも確認します。対象となる役務は総務省令で定められているため、サービスの内容に当てはめて調べる必要があります。AIの利用については、総務省と経済産業省が公表している「AI事業者ガイドライン」が、事業者の考え方を整理しています。
AIが生成した文章・問題の著作権については、規約で「利用者に帰属する」と書く例もあれば、「当社に帰属する」と書く例もあります。しかし、著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義しており(2条1項1号)、AIが自律的に生成した出力に、そもそも著作物として保護される部分があるのかは、人の創作的な関与の程度によって判断されると説明されています(文化庁の公表資料)。生成物に著作権が発生しているかどうかが定かでないのに、「著作権を譲渡する」と書いても、渡すものが存在しない場合があります。実務的には、権利の帰属を断言するよりも、利用者が生成物を学習のために使えること、事業者が運営・改善の目的で利用できること、第三者の権利を侵害しないことを保証しないこと、を書くほうが安全です。
あらかじめ確かめること AIを使う学習サービスで
AIが生成するのは何ですか。問題、解説、採点、声かけ、音声のどれですか。
誤りが学習内容に直接影響するのは、問題と解説です。採点や声かけでは、誤りの影響の出方が違うので、規約の書き方を分けます。
子どもが入力する欄に、自由記述や音声はありますか。
氏名や学校名などの個人情報が入る可能性があります。入力欄の注意書きと、外部へ送る前の取扱いを決めます。
外部のAIサービスを使いますか。入力内容が、そのAIの学習に使われない契約になっていますか。
外部のAIに送る情報の範囲と、学習に使われるかどうかで、規約・プライバシーポリシーの書き方が変わります(個人情報保護法27条・28条)。
人による確認の工程はありますか。ある場合、どの範囲ですか。
「人が確認している」と読める書き方は、確認の範囲が実際と合っていないと、品質の誤認につながります。
保護者や講師は、AIの出力を見られますか。誤りの報告窓口はありますか。
誤りを見つけた人が知らせる方法があるかどうかが、誤りへの対応の実効性を左右します。
保護者・講師との共有機能と、投稿データの権利
学習管理の機能を持つアプリや教材サービスでは、子どもの学習履歴を、保護者や塾の講師が見られるようにする機能がよく付いています。招待コードで講師と連携する、保護者のアカウントから学習時間と正答率を見る、講師が課題を出して提出を受ける、といった機能です。この共有機能は、規約の中でもっとも個人情報に近い部分で、だれが、どの情報を、どこまで見られるかを、利用者と保護者に分かるように書く必要があります。
共有の範囲を決めるときの考え方は三つあります。第一に、共有される情報の種類を分けること。学習時間や正答率だけを共有するのか、解答の中身や、子どもが書いた作文まで共有するのかで、子どもの受ける印象が違います。第二に、子どもに共有を知らせるかどうか。保護者が見ていることを子どもが知らないまま学習履歴が見られる設計は、子どもとの信頼を損ねる可能性があります。子どもに共有の範囲を表示する画面を設けるのも一つの方法です。第三に、共有の終わらせ方。退塾したとき、講師を変更したとき、保護者が連携を解除したときに、共有を止め、講師側で見られる情報がなくなる仕組みを書いておきます。
塾や学校が事業者の学習アプリを導入して、生徒の学習履歴を管理する場合、事業者と塾・学校の関係を整理する必要があります。事業者が塾から取扱いを委託されているのであれば、事業者は塾の指示の範囲で個人データを扱い、塾は事業者に対する必要かつ適切な監督を行います(個人情報保護法25条)。事業者が自分のサービスの改善や新機能の開発のために、取得した学習データを使うのであれば、その利用目的を規約とプライバシーポリシーで示し、委託の範囲を超えないよう整理します。この関係は、塾と事業者の間の契約書で決めることで、保護者への説明にも反映させます。塾側の個人情報の取扱いの書き方は塾のプライバシーポリシーと子どもの個人情報のページにあります。
条文例保護者・講師との共有(一例)
1利用者は、保護者または講師(以下「連携者」といいます。)を、サービス内の所定の方法により、連携者として登録することができます。連携の登録は、保護者が行います。
2連携者は、登録された利用者について、次の情報を閲覧することができます。(1) 学習した日時と時間 (2) 問題ごとの正誤の記録 (3) 提出された課題。連携者は、利用者の個人を特定する情報を、閲覧の目的以外に利用してはなりません。
3利用者は、サービス内の画面で、連携者が閲覧できる情報の範囲を確認することができます。
4保護者は、いつでも、連携者との連携を解除することができます。連携が解除されたときは、連携者は、その時点以降、当該利用者の情報を閲覧することができません。
講師が閲覧できる範囲は、保護者の同意の範囲で決めます。第2項の(1)〜(3)は、サービスの内容に合わせて入れ替えます。
子どもが投稿するデータ(作文、手書きの画像、音声、描いた絵など)の権利も決めておきます。規約には、利用者が投稿したコンテンツについて、サービスの運営・改善・広報に必要な範囲で、事業者が利用することを許諾する旨を書く例が多く見られます。この許諾は、子どもの作品を学習サービスの紹介などに使う場合は特に、保護者の同意の下で、利用目的と利用の範囲を限定して書きます。氏名や顔写真を含む投稿は、公表の可否と方法を別に確認します。著作者人格権の不行使を求める条項は、大人の利用者向けの規約にはよく見られますが、子どもの作品に一律に適用する書き方は、保護者の理解を得にくい面があります。
ユーザー同士が交流できる機能(ランキング、ニックネームの表示、コメントやスタンプ)を付けるときは、子どもの安全のための規定が追加で必要になります。禁止事項に、個人を特定する情報(氏名、住所、学校名、連絡先)の書き込みを加える、通報の窓口をわかりやすい場所に置く、通報を受けたときの対応と、投稿の削除・アカウントの停止の基準を書く、といった内容です。ランキングや順位を表示する場合は、順位の算出方法と、不正な操作に対する対応も書きます。
退会・サービスの終了・規約の変更:子どものサービスに固有の注意点
退会は、保護者が契約者であることから、保護者が手続をするのが原則です。子ども本人が「やめたい」と画面で操作できる設計にする場合は、誤って押した場合の戻し方や、確認画面の置き方を決めます。退会後のデータの取扱い(保存期間、削除の時期、書き出しの方法)は、プライバシーポリシーと規約で内容をそろえます。子どもが18歳になったときの扱い(契約者が保護者のままでよいか、本人に移すか)も、サービスが長期にわたって続くなら決めておきます。
規約の変更は、民法548条の4が定める定型約款の変更の要件に沿って行います。変更が相手方の一般の利益に適合するとき、または契約の目的に反せず、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更の定めの有無・内容などに照らして合理的であるときに、個別の同意を得ずに変更できます(同条1項)。変更するときは、効力発生時期を定め、変更する旨と変更後の内容、効力発生時期を、インターネットの利用などの適切な方法で周知しなければならず(同条2項)、合理性を理由とする変更は、効力発生時期が来るまでに周知をしなければ効力が生じません(同条3項)。「変更後に利用を続けたら同意したものとみなす」という書き方では足りない点は、塾の利用規約の作り方のページにあるとおりです。
子ども向けのサービスでは、規約の変更の周知を、保護者に届く方法で行うことが大切です。子どもの端末の画面にだけお知らせを出しても、契約者である保護者がそれを見るとは限りません。メールで保護者に通知する、保護者向けの画面に表示する、といった方法を併用します。料金の変更や、取得する情報の範囲が変わる変更は、特に目立つ形で知らせます。
規約を出す前の最終確認
- 「契約者」「利用者」「連携者」を別の言葉で定義し、条ごとに主語が合っている。
- 対象年齢と登録の方式が決まり、保護者の同意を確認する方法が設計に入っている。
- 最終確認画面に、対価、支払時期、更新、解約に関する事項が表示され、無料から有料への移行が目立つ。
- ポイントの型ごとに、前払式支払手段の検討を済ませ、有効期間と失効の取扱いが書かれている。
- 免責の条項が、軽い過失の責任の一部免除(上限方式)にとどまり、書いた運用(バックアップなど)が実際に行われている。
- AIの出力の誤りへの対応と、人による確認の範囲が、実際のとおりに書かれている。
- 外部のAI・クラウドへ送る情報の範囲が、規約とプライバシーポリシーで一致している。
- 共有機能の範囲が、保護者と子どもの両方に分かる形で示されている。
- 規約の変更の周知が、保護者に届く方法になっている。
起きがちなこと
よくあるご質問
子ども向けの学習アプリの利用規約は、何歳までの子どもを対象にして書けばよいですか。
決まった年齢はありません。サービスの中心となる年齢と、取得する情報、課金の有無から決めます。小学生が使うサービスなら、保護者が契約者となり、子どもは保護者のアカウントの下で使う設計が自然です。個人情報の同意についても、個人情報保護委員会のQ&Aは、一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子どもについて、法定代理人等の同意を得る必要があると考えられるとしています。なお、16歳未満の者の個人情報に関する規定を含む改正法は公布されていますが、現時点では未施行です。
「保護者の同意を得たものとみなす」と規約に書いておけば、子どもの課金の取消しを防げますか。
防げるとは限りません。民法5条は、未成年者の法律行為に法定代理人の同意を求め、同意のない行為の取消しを認めています。同意がなかった場合に、規約のみなし規定で取消しの余地をなくせるとは言い切れません。決済の段階で保護者の確認を入れる設計のほうが、実際の場面では支えになります。
学習ポイント(クレジット)は、資金決済法の前払式支払手段に当たりますか。
一律には決まりません。対価を得て発行され、金額や数量に応じて自社のサービスの代価に使えるポイントは、自家型前払式支払手段に当たり得ます。発行の日から6か月以内の期間に限り使用できるものは、規定の適用が除外されています(資金決済法4条2号、施行令4条2項)。長い有効期間のポイントを有償で販売する場合は、未使用残高が基準日に1,000万円を超えると届出などの義務が生じます。
AIが作った問題や解説に誤りがあったとき、事業者は責任を負いますか。
「正確性を保証しない」旨を規約に書いても、事業者の責任が全面的に免除されるわけではありません。軽い過失による場合も含めて責任を全部免除する書き方や、故意・重過失による場合まで免除する書き方は、消費者契約法8条の規定により無効となり得ます。誤りを知らせる方法と、報告を受けたときの対応、人による確認の範囲を、実際の運用に合わせて書いておくことが、トラブルの予防になります。
外部のAIサービスに子どもの入力内容を送る場合、規約やプライバシーポリシーに何を書きますか。
送る情報の種類、送り先の事業者が外国にあるかどうか、その事業者が入力内容を学習に使うかどうかを書きます。委託にあたる場合は委託先の監督(個人情報保護法25条)、外国にある第三者への提供にあたる場合は同意などの手続(28条)が関わります。規約とプライバシーポリシーの内容が一致していることも確認します。
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本ページは一般的な情報提供です。特定商取引法・消費者契約法・個人情報保護法などの運用は、所管の行政機関の解釈や個別の事情によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 個人情報保護委員会 / 裁判所ウェブサイト